【千夜一夜物語】(8) オマル・アル・ネマーン王とそのいみじき二人の王子シャールカーンとダウールマカーンとの軍物語(第44夜 – 第145夜)

前回、”ガネム・ベン・アイユーブとその妹フェトナーの物語”からの続きです。

この「オマル・アル・ネマーン王とそのいみじき二人の王子シャールカーンとダウールマカーンとの軍物語」は、単独の物語としては「千夜一夜物語」中最長のエピソードです。

ざっとあらましを説明しておきます。
「イスラムの王オマル・アル・ネマーン王は大変な色好み。
 360人の側室を持ち、毎夜そのうちの一人と夜を共にしていた。
 中でも一番のお気にいりはキリスト教徒の国から来たサフィーア。
 彼女は懐妊して双子の姉弟、ノーズハトゥとダウールマカーンを生む。
 ところがこのサフィーアは隣国のキリスト教徒の国コンスタンティニアの王女だった。
 王女を辱められたことに対して復讐を誓うキリスト教徒軍と回教徒軍の衝突のさなか、マル・アル・ネマーン王の第1王子シャールカーンはキリスト教徒の女王アブリザと出会う。
 ここから三代にわたる抗争が繰り広げられる、壮大な物語が繰り広げられる。」

では、本編です。

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ある時代のバグダードにオマル・アル・ネマーン王がいた。
戦に強く、版図を遠くひろげ、内には寛仁大度をみせて尊敬をあつめる名君である。
オマル王にはひとりだけ息子がおり、王子シャールカーンは武芸に秀でた勇敢な男であった。
だがその後、オマル王の側室サフィーアが懐妊し、男女の双子を産む。
最初に生まれた女の子はノーズハトゥザマーン、次に生まれた男の子はダウールマカーンと名づけられた。
男の子が生まれた場合、将来の王位争いを避けるため殺してしまおうと考えていたシャールカーンだが、最初に女の子が生まれた時点の報告しか聞いていなかったため、男の子の存在を知らない。

ある日、ルーム(ローマ)とコンスタンティニアの王アフリドニオスの使者が来て、カイサリア王ハルドビオスとの戦争に同盟を持ちかけてくる。
ある族長がアフリドニオスに献上しようとした数々の霊験をうちに秘めた三つの宝玉を、カイサリア軍が横取りしてしまったため何度か攻め込んだのだが、歯がたたないというのだ。
大宰相ダンダーンとシャールカーンが兵を率いて派遣された。

軍はある谷で大休止をとるが、ひとり地形偵察に出たシャールカーンは、キリスト教の僧院で相撲をとっている美しい白人の乙女とそれにかしづく美女奴隷たちを見る。
欲情したシャールカーンは剣をとって乱入し、我のものになり一緒に来るよう要求するが、乙女は承知しない。
乙女に恋してしまっていたシャールカーンは、せめて歓待を受けさせてくれと申し入れ、乙女は彼を僧院へいざなった。

次の日目覚めると、乙女はシャールカーンの正体を知っていた。
彼はその日から数日間歓待を受ける。
歓待を受けている途中、カイサリアの貴族マスーラの軍が押しよせてきてシャールカーンを出せと要求。
乙女はハルドビオス王の娘、アブリザ女王だった。
アブリザはシャールカーンをかばって別人だというが、マスーラは是が非でも引き連れていくと言って聞かない。
それなれば、一人対百人の兵ではなく、順番に一対一で戦って勝ったならば連行せよ、とアブリザは命じた。
シャールカーンがすべての兵を撃退すると、アブリザは、自分は折り合いの悪い老婆「災厄の母」によって回教徒に与したとされるだろう、ここから立ち去るのを手助けしてくれと言う。
そしてこの戦争が罠であることを明かす。

実はサフィーアはアフリドニオス王の娘であった。
ある祭りの帰途、サフィーアが乗る船が多くの美女たちとともに海賊に鹵獲され、カイサリア軍が海賊を駆逐してサフィーアたちをハルドビオス王に献上し、ハルドビオス王はそれをまたオマル王に贈ったのである。
アフリドニオス王はそれを知ると、ハルドビオス王と協力してオマル王に復讐しようとしたのだ。
ただし宝玉は実際に存在し、アブリザが所有している。
それを知るとシャールカーンは自軍にもどり、兵をまとめて帰還させる。
殿軍をつとめるシャールカーンに手強い騎兵が追いすがるが、それは後を追ってきたアブリザだった。
彼らは連れだってバグダードに入る。

報告を受けたオマル王は、献上された宝玉を三人の子にわけあたえる。
ここで初めてダウールマカーンの存在を知り、また、オマル王にアブリザへの欲望を見たシャールカーンは、ひどいショックを受けてしまった。

再三アブリザをくどくオマル王だが、アブリザは拒否しつづける。
そこでオマルは麻酔薬をもちい、アブリザが寝ているうちに処女を奪ってしまった。
アブリザは懐妊し、やがて臨月になると、忠実な奴隷女と屈強の黒人奴隷をひとりずつ伴い、故国をめざして出奔する。
道中欲情した黒人奴隷はアブリザに襲いかかり、彼女が自由にならないと知るとこれを殺し、姿をくらます。
最後の息で男の子を産みおとすと、そこにハルドビオス王が現れ、子を国へ連れかえった。
ハルドビオス王は復讐を誓い、災厄の母の進言を聞いて、オマル王を閨房から罠にかけるため、美女をあつめてアラビア式の教育をほどこしはじめる。
一方、アブリザがいなくなったことを知ったシャールカーンはいたく傷心し、父王に頼んでダマスの太守に任命してもらい、宮殿を出た。

十四歳になっていたダウールマカーンは、姉ノーズハトゥをさそって父王に内緒で巡礼に出る。
しかし途中で熱病にかかり、治療のために金もつきてしまった。
働きにいくといって出て行ったノーズハトゥはそのまま姿を消し、漂白したダウールマカーンは、ある風呂焚きにひろわれる。
回復したダウールマカーンは風呂焚き夫婦を従者にして帰国の途につく。
ダマスにつくと風呂焚きの妻が熱病で病死するが、ひきつづきバクダードに向かうことにする。

一方、ノーズハトゥはベドウィン人に誘拐され、ダマスの奴隷市場で売りに出されていた。
ふっかけるベドウィン人に対し、ある商人が十万ディナールの値をつける。
ノーズハトゥがあらゆる学問に通暁していることを知ると、商人は喜び、彼女をシャールカーンに献上する。
シャールカーンはノーズハトゥを解放し妻とすることを宣言。
学問を示せというシャールカーンに対し、ノーズハトゥは「三つの門についての言葉」を物語る。

【三つの門についての言葉】

人生の目的とは熱誠を発達させることであり、その道には三つの門がある。
第一の門は「処世術」、第二の門は「行儀」と「修養」、第三の門は「徳の門」。

ノーズハトゥは博覧強記を発揮し、古今の逸話をひいて熱弁をふるう。
聞いていた一同は感激し、そのまま婚礼をとりおこなう。
ノーズハトゥはたちまち懐妊し、喜んだシャールカーンはオマル王へ書簡で報告する。

父王からの返書で双子が失踪したことを知ったシャールカーンは、娘を産みおとしたばかりの妻に報告しようとする。
すると、赤子の首に宝玉が吊るされていることに気づいた。
驚いて聞くと、妻は自分がオマル王の娘であることを明かす。
シャールカーンもまた、自分が王子であることを告白する。
なんと、兄妹が互いにそれと知らず、結婚してしまっていたのだ!これをかくすため、一度も同衾することなく離別して侍従長と結婚させたということにし、「運命の力」と名づけた娘をそこで養育させることにした。

オマル王から第二の飛脚がとどいた。
老女に率いられた学識豊かな五人の乙女がルームからきており、これを購入するためにシャーム地方の年貢一年分が必要である。
年貢をバクダードに送り届け、ついでに教養があるという汝の妻を当方に派せ、という。
ノーズハトゥが侍従長とともに父のもとに向かい、事情を説明することにした。
そのあいだ運命の力は、ダマスで大切に育てることになる。

ダウールマカーンがダマスを発ったのは同じ日のことで、隊列のあとについて旅をし、やがてバクダードにほど近い地で野営する。
懐かしさに詩をうたうダウールマカーンの声に気づいたノーズハトゥは、宦官に命じて三度まで歌った男を探させる。
姉弟は再会を果たし、互いにこれまでのことを告白する。
このとき侍従長ははじめて自分の妻が王女であることを知った。

さらにバクダードに向かう一行の前に大軍があらわれた。
これを率いる大宰相ダンダーンによると、オマル王は殺されたのだという。
跡継ぎはシャールカーンと決まり、自分は迎えにゆく途中なのであるが、都にはダウールマカーンを推す勢力ものこっているらしい。
侍従長がダンダーンに事情を説明すると、緊急会議がひらかれ、ダウールマカーンを新王に迎えることになる。
王座につくと、ダウールマカーン王は父の死の事情をダンダーンに問うた。

【オマル・アル・ネマーン王崩御の物語ならびにそれに先立つ至言】

オマル王が双子の失踪に心を痛めていると、人品卑しからぬ老女が五人の乙女を連れてあらわれた。
王は彼女らがもっているという知識の披露をもとめ、五人の乙女と一人の老女は順々に古老の言葉を物語る。

感服した王は五人の処女を買い受ける相談をするが、老女は金では贖えない、ひと月断食せよと告げる。
そして最初の十日が過ぎたらこの聖水を飲め、自分は「見えざる国の住人」に会いにいき、十一日めの朝に現れる、といって立ち去った。
十一日め、聖水を飲んでいると老女があらわれ、バナナの葉にくるまれたジャムを渡し、二十一日めにこれを食べろと告げて立ち去った。
そして二十一日めの朝、老女が再度あらわれる。

乙女たちを「見えざる国」に連れてゆき、潔めをうけさせて三十日めに戻るだろう、ついては誰かをともに連れていき潔めをうけさせてもよい、という話に、王はサフィーアを連れてゆき、行方不明の子らを取り戻せるようはかってくれと申し入れた。
老女は封印された盃をわたして三十日めの朝に飲めといい、サフィーアを連れて立ち去った。
しかし三十日め、王はずたずたに切り割かれた肉片となって家臣どもに発見されたのである。
残された盃には、アフリドニオス王の命を受けた災厄の母が、サフィーア王女を奪還しオマル王に復讐を果たした顛末の、勝利宣言メモが残されていた。

ダンダーンが語り終わると、ダウールマカーン王はさめざめと泣いたあと、はじめての御前会議の準備をはじめた。
ダウールマカーン王はダマスから運んできた財宝をわけあたえ、次にシャールカーン宛に、力をあわせて弔い合戦をしようと手紙を書き、ダンダーンに届けさせた。
ダンダーンがもどるあいだふたつの出来事があり、ひとつは風呂焚きが多大な栄誉に浴したこと、もうひとつは白人奴隷のひとりに手がついて、子を孕んだことである。
やがてシャールカーンは軍をひきいてダウールマカーン王に合流した。
兄弟のあいだにわだかまりはなかった。

ダウールマカーン軍は進撃を開始する。
迎撃するのはアフリドニオス王ととハルドビオス王の連合軍。
アフリドニオス王は災厄の母を召し出して、策を聞く。
災厄の母が提示したのは包囲作戦である。
さらに、まずシャールカーンを亡き者にしようとし、ルカスという屈強の戦士に一騎打ちをさせる。
しかしシャールカーンはこれを撃退した。
一騎打ちが終わると乱戦になり、ダウールマカーン王は偽りの敗走の計をたてた。
計略は図にあたり、キリスト教軍は壊滅した。

アフリドニオス王がコンスタンティニアに逃げ戻ると、災厄の母は五十の兵を借りて回教徒の商隊にばけさせ、自身はキリスト教徒に幽閉されているところを救出された聖人に扮し、兵たちに指示を与えてダウールマカーン軍に接触した。
兄弟はすっかり信じてしまい、災厄の母は次のようなデタラメ話をした。

【僧院の物語】

わたしがルームを旅していると、キリスト教僧院のマルトナという僧侶の罠にかかり、僧院に幽閉されてしまった。
わたしを憎み餓死させるつもりだったのだが、僧院にはタマシルという美少女がいて、ひそかにパンを運んできてくれたため生き残ることができた。
わたしはそこで五年すごし、このたび隊商によって救助されたわけだが、そのあいだにタマシルは絶世の美女に成長しており、また、僧院には多くの財宝が残されている。
ぜひわたしを案内者として美女と財宝を手に入れるべきである。

災厄の母の言うがまま、全軍を侍従長にまかせて進軍させ、ダウールマカーン、シャールカーン、大臣ダンダーンの三人が百の精兵を率いて僧院に向かうことになる。
災厄の母は百騎の切り離しに成功したことをすぐにアフリドニオス王へ知らせ、一万騎の兵を派遣させる。
兄弟たちは僧院へ攻め込みすぐに陥落させるが美女タマシルはおらず、しかたなく立ち去ったところを敵兵に囲まれてしまった。
災厄の母は言葉たくみに決戦させるよう誘導し、回教徒勢は鬼神のごとき働きをみせるが、一日目の戦闘が終わると四十五人に減っていた。

本軍に救援を求めてくるといって、災厄の母は姿を消す。
次の日には十人を残すのみとなったが、なおも洞穴にたてこもって抵抗する。
手をやいたキリスト教軍は、火攻めをしかける。
いぶり出された三人はついに捕虜になってしまうが、隙を見て脱出し、森にひそんで「アッラー・アクバル!」と何度も叫ぶと、大軍がせめてきたと勘違いしたキリスト教軍はパニックに陥いる。
そこへ救援軍が到着。
兄弟たちはこれを指揮し、パニック状態のキリスト教軍に襲いかかってこれを殲滅する。

コンスタンティニアに向かうと、今度は災厄の母があらわれて本軍の急をつげる。
いそいで向かうと、ちょうど侍従長が敗走してくるところであった。
もちろんこれも災厄の母の計略である。
王たちへの救援兵を割いて手薄になったことをアフリドニオス王へ知らせて総攻撃をかけさせたのだ。
軍をたてなおして進撃すると、アフリドニオス王がシャールカーンに一騎打ちを挑んできた。
シャールカーンは勇んで受けてたち、一日目は両者互角に戦う。
しかし二日目、だまし討ちにあって負傷してしまった。

怒ったダウールマカーン王はアフリドニオス王に一騎打ちをしかけ、怒りにまかせてその首をうつ。
それを期に回教徒軍はキリスト教軍に襲いかかり、これを殲滅した。
これに顔色をかえた災厄の母は、療養中のシャールカーンとふたりきりになるチャンスを待つ。
そして災厄の母は、シャールカーンが眠っているあいだに首をかき、おのれの計略をあかしてさらにダウールマカーンとダンダーンの首もとると宣言したメモを残して立ち去る。
シャールカーンの遺体を発見したのは、これまでずっと謎の聖人を疑っていた大臣ダンダーンだった。

ダウールマカーン王は兄の死を悲しみ、長いあいだ何も手につかなかったが、長男カンマカーンの誕生を知らせる手紙が届くと、やっと行動を開始する。
シャールカーンの喪明けを終わらせると、ダウールマカーン王は大臣ダンダーンに、心楽しい物語をするように命じる。

【アズィーズとアズィーザと美わしき王冠太子の物語】

ペルシアの都市のうちに「緑の都」という都があり、公正寛大で人民に愛される王スライマーン・シャーが治めていた。
しかし王には妻子だけがなく、大臣にそのことを相談すると、「白い都」のザハル・シャー王に美しい娘がいるという。
スライマーン・シャー王は大臣を派遣して輿入れを申し入れることにする。
ザハル・シャー王はこころよく受け入れ、娘を送り出した。
婚礼ののち女王はすぐにみごもり、産みおとされた子は「王冠」と名づけられた。

王冠太子は立派な美丈夫に成長した。
あるとき狩りに出かけると、野営地に大きな隊商が同宿しているのを知る。
そのうちにアズィーズという美しい若者がいたのだが、彼の顔には深い悲しみがきざまれている。
わけを聞く王冠太子に、アズィーズは二枚のカモシカが刺繍された布切れをみせ、不思議な物語をする。

【美男アズィーズの物語】

わたしの父は豪商で、亡くなった叔父の娘アズィーザはわたしの許婚者だった。
所定の年齢に達し、婚礼を行うことになった日のこと。
祈祷に行って汗をおさえかねたわたしがうずくまっていると、頭上の窓から美しい女がハンカチを落としてくれた。
女は不思議な合図をすると姿をかくしてしまったが、すっかり心をうばわれたわたしは、婚礼を放っておいて日暮れまでそこでずっと待っていた。
夜になると、客たちはみんな帰っており、父は婚礼を一年延期したらしい。
アズィーザにすべてを正直に話すと、彼女はけなげにも女の合図の謎解きをし、力添えをすると言ってくれる。

二日後、再度女のもとへ行くが、またしても謎めいた仕草をして姿を隠してしまった。
帰るとアズィーザは泣きはらした様子だったが、またしても謎解きをしてくれる。
その言葉に従って五日後にまた女の家に行くが、女は姿をみせなかった。
むなしく帰ったわたしは、またも泣き暮らしていたらしいアズィーザを、つっけんどんに突き飛ばす。

アズィーザの助言により次の日も女の家に行くと、またも謎かけをして姿を消した。
悲しみにくれる従姉妹は、それでもわたしに知恵をさずけ、女に会ったら言えという詩をさずける。

次に女の家にいくと戸が開いており、ご馳走が用意されていた。
数時間待っても誰もこず、空腹に耐えかねてご馳走を食べると、睡魔に襲われて眠ってしまう。
次に気がつくと朝になっており、わたしの腹の上には塩と炭がのせられていた。
帰って歎きのふちにいるアズィーザに報告すると、それは眠ってしまったことを責めるしるしだという。

今度は絶対に眠るなと言われたのだが、やはり睡魔に勝てず眠ってしまった。
翌朝わたしの腹にはいくつかの品が置かれ、そのわきに一振りの小刀が会った。
それは、こんど眠ったらお前の首をかく、というメッセージだという。
そこでアズィーザは、昼のあいだわたしを眠らせ、食物を与えたのちに送り出した。
その甲斐あって、わたしはやっと女と本懐を得ることができた。
次の朝、女は「樟脳と水晶の島々」の王女が作ったという、カモシカが刺繍された布切れをわたしに渡した。

帰るとアズィーザは病にふせっており、あの詩は伝えたかと問いただす。
忘れていたわたしは、次の日間違いなく女に伝えると、女は返詩を送った。
帰宅するとアズィーザはかなり悪い様子だったが、さらに二節の詩をさずける。
それを女に伝えると、彼女はこの詩を詠んだものはすでにこの世にいない、と告げた。
はたしてアズィーザは、その日みまかっていたのである。

母親はわたしを責め、アズィーザが遺したメッセージを伝える。
「いかばかりか死は快く、裏切りにまさるものぞ!」という一文を言うように、と。
さらにアズィーザは、わたしが本心から彼女の死を悼んだときに渡すようにと、ひとつの品を母親に託したという。

わたしがアズィーザのメッセージを伝えると、女は、その言葉によりお前はわたしの破滅の企みをのがれることができたのだ、と言った。
さらに、わたし以外の女に目を向ければ同じ運命になるだろう、なぜならお前に知恵をさずける女はすでにこの世にないのだから、と。
それからわたしと女は蜜月の日々を送ったのである。

あるとき老婆に手紙の代読を頼まれたわたしは、その家の娘に目をうばわれたすきに監禁されてしまう。
娘は、自分と結婚する以外に「あばずれダリラ」からのがれるすべはない、と言った。
そして、「あばずれダリラ」の手に落ちながらまだ生きているのはなぜかと問う。
わたしがアズィーザの話をすると納得した様子であったが、その後公証人をまじえて正式な婚礼をむりやりとりおこなう。

翌朝立ち去ろうとするが、この家の門はまる一年後にしか開かないという。
しかたなく一年すごし、次の日までには帰るという約束で外に出ると、ダリラの家の前に通りがかった。
わたしが消えたことを悲しんでいたダリラに、これまでのことをすべて話すと、ダリラはわたしが結婚したことに激怒する。
彼女はわたしを殺すつもりだったが、「いかばかりか死は快く、裏切りにまさるものぞ!」と叫ぶとひるみ、命のかわりにわたしの男根を切り落とした。
その後妻の家に帰るが、不具になったことを知ると妻はわたしを放り出してしまう。
しかたなくわたしは母の元へもどった。

母は父の死を告げた。
そして、アズィーザに対するわたしの悔恨の情をみてとると、彼女が遺した品物を渡す。
それはカモシカが刺繍された二枚目の布切れだった。
布切れにはメモがはさまれており、これは「樟脳と水晶の島々」の王女セット・ドリアから譲られたものであり、不幸に耐えがたいときは王女を訪ねるとよい、という。
そこでわたしは、隊商にまじって旅に出ることにした。

「樟脳と水晶の島々」につき、セット・ドリアの美貌に目を奪われたわたしだが、しかし不具の体ではどうすることもできない。
わたしは深く絶望し、帰国の途について、この「緑の都」に入ったのである。

【ドニヤ姫と王冠太子の物語】

アズィーズの話を聞いた王冠太子はドニヤ姫に想いをかけた。
スライマーン・シャー王は姫を后にむかえるため使者を出すが、姫は結婚を忌み嫌っている。
王冠太子は商人に扮してアズィーズと大臣とともに緑の都に入り、店を開くことにした。
やがて店に買い物に来た姫の乳母だった老婆は、ひとめで若く美しい太子のファンになり、彼女を介して姫と文通をはじめる。
しかし姫のツンぶりはかたくなで、いっこうにデレない。
聞くと男嫌いの原因は、いやな夢をみただけらしい。
大臣の計略で夢と正反対の場面をみせると、姫の憑きものはすっかり落ち、タイミングよく姿をみせた太子の姿に、逆にひとめぼれしてしまう。
老婆の手引きで落ち合ったふたりは、寝食を忘れて蜜月をすごす。

太子の姿が消えたため死んだと勘違いした大臣らが帰国して報告すると、スライマーン・シャー王は軍勢を率いて攻め込んだ。
姫と姦通していた太子を名乗る男を処刑しようとしていたドニヤ姫の父王は、それによって太子が本物であると知る。
ふたりは正式に結婚し、アズィーズら関係者は手厚く遇された。

【ダウールマカーン王の崩御】

ダンダーンの話を聞きおわったダウールマカーン王は、その進言を聞いていったんバクダードへ戻る。
ダウールマカーン王は帰国した都で体調を崩し、カンマカーンに王位を譲って崩御した。

【ダウールマカーンの王子、若きカンマカーンの冒険】

しかし侍従長が国を簒奪する。
カンマカーンと運命の力は幽閉されたが、美しく成長したふたりは互いに惹かれあい、密会を重ねる。
それが発覚し侍従長の立腹を知ると、カンマカーンは力を得てふたたび戻ることを期して旅にでた。
恋人ネジマとの結婚資金を求めてさまよっていたベドウィン人サバーを従者にし、アフリドニオス王から盗み出された駿馬カートゥルを得て戦いをかさね、多くの奴隷や家畜を手に入れる。
そして二年ほどたったとき、大臣ダンダーンがクーデターをおこして侍従長を捕らえたという知らせが入った。
凱旋したカンマカーンは運命の力を后とし、いまやルームの摂政となっている災厄の母を討伐する軍をおこそうとする。
するとそこへ、カイサリアの新王ルームザーンがとつぜん現れた。
彼はアブリザ姫が最期の力で産み落としたオマル王の忘れ形見である。
ハルドビオス王のもとで育ちながらも、侍女珊瑚の教育により回教徒になっていたのだ。
王たちは共謀して老婆を呼び出し、ついに災厄の母を捕らえて処刑した。

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次回は、鳥獣佳話です。

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